岡山放送株式会社(OHK)
進化したモータースポーツの手話実況をお届け。
楽しんでもらい、多様性ある社会実現のきっかけにしたい。

進化したモータースポーツの手話実況をお届け。 楽しんでもらい、多様性ある社会実現のきっかけにしたい。

手話実況の現在と未来像を代表取締役社長の中静さんと、プロジェクトの責任者の篠田さんにお話を伺いました。

今回考案したアイデアの紹介をお願いします!

日本初となる、モータースポーツの手話実況に挑戦しています。

篠田さん 障がいのあるなしを問わず、誰もがモータースポーツを楽しめる環境を提供するため、前回の実証実験では日本で初めての手話実況にチャレンジしました。

リアルタイムでレースの様子を手話で伝える試みでしたが、その第2フェーズとしてバレーボール、サッカー、陸上競技など、いろんなスポーツ実況にもノウハウを還元しています。個人的な感想になりますが、手話実況との相性は、最初にやったモータースポーツが一番マッチしていたのではないかと思います。

手話実況というと、音声の実況をそのまま手話に変換すると思う方が多いはずですが、そのまま直訳で手話にしても、そもそもルールや専門用語など、基本的な情報を知らない人には伝わりにくいということがわかっています。情報をどう整理すれば、耳が不自由な人にもレースをリアルに体感してもらえるかを検証しながら、手話実況をやりたい方の育成も行っており、それがOHK手話実況アカデミーです。

音声実況の通訳ではなく、意味をくみ取り、手話でわかりやすく伝えるにはどうすればいいのかについて、ノウハウの作成も進めています。

発案のきっかけは何ですか?

30年続けてきた手話放送の経験を、社会貢献につなげようと考えました。

篠田さん 岡山放送で手話による放送が始まったのは、ちょうど30年前になります。ふとしたきっかけで聴覚に障がいがある方を取材したとき、普通の音声放送ではこの人に届かない、ということに気づきます。それなら手話が必要だとなり、以来30年間毎月、手話付きのニュース特集を放送してきた経緯があります。

中静さん 基本的な思いは「誰1人、情報から取り残さない」というところにあったと思います。その一環として手話放送に取り組み、ずっと継続しながら、どんな成果を生むのかを含めて挑戦を続けてきました。スポーツの手話実況は、私たちの取り組みを次のフェイズに進めるきっかけになるのではないでしょうか。

スポーツ実況で感動を伝えるのは、音声であっても難しい部分があります。人の思いやヒストリーなど、バックグラウンドをふまえた上での実況があって、はじめて感動や興奮が伝わるのだと思います。それは手話実況も同じでしょう。そのノウハウを伝えるのがOHK手話実況アカデミーの役割であり、私たちにとっての挑戦であります。

利用された方からはどのような声が寄せられていますか?

聴覚に障がいがあっても、レースを楽しめるという声をいただきました。

篠田さん 前回のレースには、トヨタ・モビリティ基金の豊田章男理事長も「モリゾウ」というレーシングネームで参加されていました。私たちの実況に興味を持たれて、終わった後にお話する機会がありました。

「私に手話はわからないけれど、言葉を伝えようとしている思いはすごく伝わってきました。障がいのある方も健常者も楽しめる実況ですね」という言葉をいただき、私たちの取り組みがユニバーサルな実況だと改めて認識しました。

手話を使うことで「私たちもモータースポーツから取り残されていない」と、聴覚に障がいがある方には受け止めてもらえたようです。「私たちにもモータースポーツは門を開いてくれました」「耳が聞こえなくてもサーキットに来てもいいんですね」など、手話実況を見た方々から好意的な評価をいただきました。

実証に向けて苦労していることは何ですか?

筋書きのないドラマを、手話ならではの実況でどう伝えるかを考えています。

篠田さん スポーツを含め、リアルタイムの実況は「筋書きのないドラマ」とも呼ばれます。普通、手話でニュースを伝える場合、事前に原稿が用意されていて、それを手話で表現しますが、スポーツの生実況の場合、そうはいきません。昨年のスーパー耐久レースの実況のときも、クラッシュによってレースが止まってしまう場面がありました。

カメラが現場に行くのを待って、音声の実況は少しの間止まりましたが、手話実況をしていたのは聴覚に障がいのあるアスリートで、ドライバーの気持ちや、自分自身の競技体験などを交えて伝え、実況を途切れさせなかったのです。音声にはない、手話実況だからこその魅力を感じられた出来事でした。

そのアスリート目線を、私たちはとても大事にしなければいけないと思っています。岡山放送はフジテレビ系列なので、トップレベルのスポーツ中継の経験豊富なフジテレビのアナウンサーにも教えていただきながら、実況のスキルを高めると同時に、手話だから伝えられるものは何かを、常に考え続けなければいけないと思います。

本コンテストに参加した理由を教えてください!

障がいのあるなしに関わらず、一緒に盛り上がれることを伝えるためです。

篠田さん 30年間続けている手話実況の経験、ノウハウをもとに、聴覚に障がいのある方も、スポーツの感動や興奮を味わえることを伝えるためです。

実際にサーキットで手話実況をやって気づいたのは、レースカーがスタンド前を通過するときの音の迫力でした。あのエンジン音がモータースポーツの大きな魅力ですが、健常者でも、言葉だと隣の人とのコミュニケーションに苦労するほどです。その瞬間は、障がいのある方とない方を分けず、同じ方法で盛り上がれるのではないでしょうか。

例えば、レースカーが通過するときは「わあ~」と声を上げながら拍手をします。手話には拍手の形があり、障がいのあるなしに関わらず同じ形で手を振れば、よりスタンドの一体感は増すのではないでしょうか。モータースポーツの新しい観戦方法であり、新しい文化が生まれるきっかけにもできるのではないかと思います。

本コンテストでの挑戦、実証内容はどういったものになりますか?

7人の聴覚に障がいのある方が手話実況やレポートに挑みます。

篠田さん 昨年はスーパー耐久レースの予選で手話実況を行いました。まず音声実況を通訳者が聞き、それをもとに早瀬憲太郎さんという、デフリンピックの自動車競技に出場経験がある聴覚に障がいがある方が、自分の言葉として手話で実況する形でした。

いろんな工夫をしましたが、早瀬さんは「音声の変換だけでは十分に伝えられません」と、音声実況者の表情がわかる映像を用意して、そこから臨場感をくみ取って実況しました。

課題として浮かんだのは、実況陣の体力を考慮して、1時間のレース実況が限界だったことです。今回は複数の実況者と翻訳者を用意し、体制を強化することで、長時間の実況はもちろん、複数のレース実況にも挑戦する予定です。7人の聴覚に障がいのある方が、実況とレースのダイジェスト映像の手話解説を行います。

このプロジェクトの影響力は想像以上で、モータースポーツ以外の全国組織からもお声がけをいただいています。2025年、日本で初めてデフリンピックが開催されるのですが、聴覚に障がいのある方の奮闘を、同じ障がいのある方が実況するような姿を見られればいいと思います。今回の実証実験を通じて興味関心を高めていきたいですね。

最後に本コンテストにかける想いをお願いします!

スポーツがすべての人の身近にある社会の実現に貢献していきます

篠田さん スポーツは、私たちが社会の中で生きていくなかで、とても身近にあって楽しめるものです。健常者も、障がいのある方もみんなが楽しんでいる様子は、多様性あふれる社会である証になるのではないでしょうか。その第一歩として、一緒に競技ができる環境、一緒に観戦して感動を共有できる環境をつくり、スポーツがすべての人の身近にある社会を実現したいと思います。

中静さん 繰り返しになりますが「誰1人取り残さない」という意味での情報伝達が重要であり、それを多くの人にわかってもらうため、手話実況の普及に取り組んでいこうと思っています。また、持続性のある試みにするには、ビジネスとして自立できる仕組みもつくらなくてはいけません。地域経済、人々の暮らしにプラスの効果をもたらせるように、いろんな取り組みを進めていきます。

進化したモータースポーツの手話実況をお届け。 楽しんでもらい、多様性ある社会実現のきっかけにしたい。
【岡山放送株式会社(OHK)】実証チーム紹介 | Mobility for ALL 2023
プロジェクト代表者
代表者写真
プロジェクト代表者
篠田 吉央
岡山放送株式会社 アナウンス室 担当部長 兼 情報アクセシビリティ推進室 室長。
2005年入社。スポーツ実況やニュースキャスターを経て、2018年手話付きのニュース特集「手話が語る福祉」の担当キャスターに。
バリアフリーの国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード」や「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞し、取材者としてだけでなく実践者としても活躍。
レース観戦の新たな魅力を持続可能にするOHK手話実況アカデミー
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