世界初の触覚映像ディスプレイの実証実験を行ったのは、韓国のスタートアップ、Dot Inc.でした。デバイスのメインモニターには、レーシングカーの形状、目の前のコースの全体像とマシンの位置を点字で映像化して表示します。 テキスト情報は下の点字スペースに表示し、「点字には幅、間隔など世界規格がありますが、Dot Padはその規格を満たす、世界で唯一の技術になります」という説明に、体験者たちは興味津々といった様子です。

体験は、まずDot Padでレースカーの形状を指先で感じてから、決勝レースの順位などを点字の映像、テキストで確認する流れです。初めて触るデバイスのため、最初は戸惑う方もいましたが、点字で表現されていることを理解すると、「こういう風に指先でレースを感じることもできるのですね。面白いです」と、点字モニターを触りながら語っていました。

タブレットで描いた絵や文字を点字モニターで立体的に表示することもでき、想像で描いたクルマの絵を指先で確認しながら「どう描けているのか、初めてわかりました」と、夢中になっている方もいました。

電通チームが開発しているのは、カメラ映像と走行データからスポーツの実況音声をリアルタイム生成する、スポーツ実況生成AI「Voice Watch」です。昨年は、AI実況がレースの内容を正確に伝えられるかを検証しましたが、今年は新機能｢推し実況｣の開発に取り組んでいるそうです。

｢推し実況｣では、ユーザーが選択した特定の選手･チームにフォーカスした実況が生成され、自分の応援する選手やチームの実況を聴くことができるという、AIならではの新しい観戦体験が実現します。

体験した視覚障がいのある男性に話を伺うと、「AIの実況に興味があって参加しました。とても聞き取りやすく感じましたし、盛り込まれる情報もタイムリーで、実況として面白いと思います」と語ってくれました。同じく視覚障がいがありモータースポーツが好きだと言う女性は、「チームやドライバーにフォーカスできるのは、とてもいい。シリーズを通して自分の好きなチームを追いかけたくなるかもしれませんね」と、笑いながら語ってくれました。

eスポーツを通じて、当事者の方が自分らしく・やりがいを持って社会参加する支援を行っているePARAは、「クロスラインレース」と呼称するeモータースポーツイベントを開催していました。

リアルのサーキットではスーパー耐久レースが行われ、そのエンジン音が響く会場で、レーシングシュミレーターを使うバーチャル耐久レースを行います。スーパー耐久と同じく、コースは「もてぎのロードコース」、ドライバーは「3人体制」など、リアルとバーチャルを交錯(クロス)させ、モータースポーツの魅力を広めようという試みです。

バーチャル耐久レースには、健常者はもちろん、障がいのある方も参加します。それは、障がいの有無に関係なく「誰でもレーサーになれる社会」の実現を目指すため。体験した方からは「ジョイスティックで、電動車椅子と同じように操作できるから、慣れればもっと速く運転できるかも」「振動とか、走行中のマシンの挙動も感じられるようになれば、臨場感はうんと高まると思いました」など、誰でもレーサーになれる社会の楽しさを、先取りするような声が聞かれました。

また、視覚障がいチームと車椅子チームがモビリティリゾートもてぎに来訪する「クロスラインミニツアー」も実施。障がいを持つ方々が、Mobility for ALLのさまざまな実証と連携しながら、それぞれの観点からサーキット体験や実証実験への協力を楽しみました。

中央広場、スタンド、ピットなどを移動しながら、自社開発の網膜投影技術を使ったツールで、視覚に障がいがある方のレース観戦、さらにカメラで写真撮影する実証実験を行っていたのはQDレーザです。デジタル一眼レフカメラに接続した小型プロジェクターを覗くと、視覚に障がいがある方でも映像がはっきり見え、そのまま写真撮影するのも可能だといいます。

「小学生の男の子に手渡すと、とてもよろこんで、ずっと手放さなかったのが印象的でした。写真を撮ると被写体が中央にあり、ちゃんとピントがあっていて、お母さんも驚かれていましたね」と、関係者は語ります。

決勝レース開催日のピットウォークで、このシステムを体験したロービジョンの女性は、「ファインダーをのぞくと、輪郭がはっきりした映像が見えるので感動しました。私は旅行が好きなので、このカメラを持って出かけて、いろんなところで撮影したいですね」。このシステムが行動変容を促し、「マイナスをゼロにではなく、プラスに転換する。そのきっかけにしてほしいと思います」と、関係者は手応えを語っていました。