靴にデバイスをつけて、デバイスの振動によりナビを行うシステム「あしらせ」を開発する、千野さんにお話をうかがいました。
今回考案したアイデアの紹介をお願いします!
視覚に障がいがあっても、安心して楽しめる施設内ナビゲーションを検証します。
千野さん 遊園地、宿泊施設、サーキットを含めたモビリティリゾートもてぎで、「あしらせ」アプリによって各エリアをつなぐだけでなく、エリア内にある重要ポイントを目的地に設定したナビゲーションを提案します。
例えば、グランピング会場のテント、トイレ、温泉施設など、宿泊に必要な施設を目的地に設定できます。サーキットでは、各出店、レストラン、ゴミ捨て場、観戦シートといった地点を設定し、それらを拠点としてつなぎ、モビリティリゾートにいる間の移動をサポートするイメージです。また、レース情報や宿泊施設情報など、目的地点候補の情報に簡単にアクセスできるようアプリを構築しました。
視覚に障がいがある友だち同士の利用を想定して、単独でトイレに行ってもその後でスムーズに合流出来るよう、友だちがいる地点を目的地に設定できる「友だち目的地機能」や、周囲に友だちがいるかを確認できる「友だち距離確認機能」をアプリに搭載しています。こうした「あしらせ」の機能を使い、視覚に障がいのある方々が安心して外出したいと思えるかを検証する予定です。
発案のきっかけは何ですか?
「もう気軽に遠出することはできないとあきらめています」という言葉に触発されました。
千野さん 弊社の開発方針は「視覚に障がいのある方をひたすらヒアリングし、本当に求められるナビゲーションにする」です。現在の「あしらせ」のベース機能もその考えをもとに開発してきましたが、ある日、視覚に障がいのある方から「昔はいろんなところに旅行することが趣味だったけれど、もう気軽に遠出することはあきらめています」という話を聞きました。
より詳しく話を聞いてみると、旅先では視力の問題で周囲の環境をうまく把握できないため、単独で行動することが難しいケースが多い、という課題が明らかになりました。また、どの程度のサポートが受けられるかがとても重要ですが、各施設にも事情があり、視覚に障がいのある方々だけにフォーカスするのは、なかなか難しいのが現状です。
そこで、現地に行ってからではなく、事前に何があれば安心して出かけられるかを深掘りして開発したのが、今回の施設内ナビゲーションになります。
利用された方からはどのような声が寄せられていますか?
「これがあるなら出かけてみたい」という、うれしい反応をいただきました。
千野さん 昨年、サーキットに特化した施設内ナビゲーションを開発して検証を行った際に、「安心感が増す」といった声や、「これがあれば行ってみようと思えます」など、前向きな、うれしい反応がありました。一方「レースは趣味として偏りがあるため、楽しみ方の幅がほしい」「他の施設でも使えたらいい」という感想もいただき、今回は複合施設での実証を進めています。
実証に向けて苦労していることは何ですか?
施設の詳細な位置情報、ルート情報を机上データだけでは整合できないこともあります。
千野さん 一般的な地図データを使ってナビゲーションを構築すると、施設内のルートや施設についての詳細データが存在しないケースが多くあります。
今回、そういった情報不足を補うアプリケーションを開発しているのですが、机上にあるデータからルートを構築してナビゲーションを実施しても、実際は歩けない場所が存在するケースもあるのです。周囲に手すりがない階段など、視覚に障がいのある方には難易度が高いルートも存在するため、そこでの対応が苦労するポイントになります。
本コンテストに参加した理由を教えてください!
私たちは歩行も「Mobility」だととらえており、本コンテストはその考えを体現できる場だと考えたからです。
千野さん 弊社は「人の豊かさを”歩く”で創る」をミッションに掲げ、活動しています。歩行をモビリティだととらえ、より豊かな歩行を後押しするプロダクトを提供していきたいと考えていて、視覚に障がいのある方向けの歩行ナビゲーション「あしらせ」を開発してきました。
また、本プロジェクトの「Mobility for ALL」というコンセプトには、移動の可能性をすべての人にという軸があり、弊社の考え方をより加速させる場だととらえて応募させていただいた、という経緯があります。
本コンテストでの挑戦、実証内容はどういったものになりますか?
体験全体を通して、「あしらせ」があったから「楽しめた」「次はあそこに行きたい」と思っていただくのが狙いです。
千野さん 今回、施設内のナビゲーションを行うにあたって、駅からモビリティリゾートまで、モビリティリゾート内での一泊二日、そしてモビリティリゾートから帰宅という一連の流れについて、「あしらせ」があるから楽しめた、と感じてもらえるような実証をしたいと考えています。
そのため、駅からタクシーへ、タクシーを降りてから施設内での移動のサポートだけでなく、施設を楽しむための情報提供や、一緒に出かけた家族、友だちとのつながり、安心感をデザインしたプロダクトを用意しました。
個別の検証として、各移動のしやすさや情報取得の簡単さなどを検証していきますが、最も重要な検証項目は「旅全体を楽しめたか」です。もし「楽しめなかった」「不安になることがあった」としたら、状況を深掘りしながら原因を明確にし、次の活動につなげていくことになります。
最後に本コンテストにかける想いをお願いします!
現在地を社会実装への中間地点だととらえ、実りある検証を行いながら、実装に向けて加速させていきます。
千野さん 前回は初期PoCとしてコンセプトを定める検証を行いましたが、今回は実際の利用に近いプログラムを組み、施設領域・種類を増やすことで、実用性の検証を行っていきます。この実証において、より具体的な課題の明確化と潰し込みを行い、さまざまな施設での利用を前提とした社会実装に近づけていきたいと思います。