レーシングシミュレーターの操作デバイス開発者の島田さんにインタビューしました!
今回考案したアイデアの紹介をお願いします!
障がいのある方も操縦できるレーシングシミュレーターの操作デバイスを開発しています。
レーシングシミュレーターを、身体に障がいのある方でも楽しめるよう支援するソリューション開発を行っています。
シミュレーターはハンドルとペダルで操作しますが、車椅子の方はペダルを踏めなかったり、上肢の障がいがある方はハンドル操作が難しかったりします。一人ひとりの身体の状態に応じて、その人に最適なシミュレーターシステムを用意することで、楽しんでいただくことを目指しています。
もともと、弊社はパソコン、スマホ、タブレットなどのデバイスを、障がいのある方も使えるような技術的支援を行っていました。その人が持つ個性、可能性を最大限に引き出すにはどうしたらいいのか、創業からずっと追求してきた経緯があります。その延長線上に、今回のレーシングシミュレーターがあります。
発案のきっかけは何ですか?
元レーサーの方との出会いから、すべては始まりました。
元レーサーの長屋宏和さんとの出会いがきっかけでした。
長屋さんはレース中の事故で脊髄を損傷して、肩と肘は動かせるけれど、手は動かせないのでハンドルを握れません。下半身も麻痺しているため、ペダルの操作もできない状態でした。それでも「もう一度レースにチャレンジしたい」という強い思いをお持ちだったので、シミュレーターならそれが可能ではないか、とお話しさせていただきました。
長屋さんの体に合ったシミュレーターの構造を検討していくなかで、トヨタ・モビリティ基金の活動を知りました。そして、長屋さんのための開発と並行して、もっと多くの人に楽しんでもらえるデバイスの開発、環境づくりはできないかと考えるようになったのです。
利用された方からはどのような声が寄せられていますか?
操作を直感的に楽しめるところが高く評価されているようです。
昨年の実証実験にも参加させていただきましたが、約10名の方からアンケートの回答をいただいています。長屋さんのように、身体が麻痺している状態の方、神経難病の方、脳性の麻痺の方からの満足度は総じて高く「モータースポーツに対しての興味が高まりました」と答えていただいた方もいました。
細かく見ていくと、コンセプトに対する評価は高く、障がいに合わせて操作方法を変えられたり、自分が操作しやすい位置に機材を柔軟に配置できたり、といったところが評価されています。ペダルを踏めないと楽しめないと思っていた方が、1本のレバーだけでアクセルやブレーキペダルの操作ができ、直感的に楽しめたと答えていました。前向きにとらえてもらえたと思います。
改善点として時間不足、デバイスが自分になかなか合わなかった、という声もありました。そもそも初めてシミュレーターを体験する方は、短い時間ではなかなか判断しにくい部分もあったと思います。練習すればもっとうまく操作できると思ったなど、いろんな反応をいただいています。
実証に向けて苦労していることは何ですか?
個々の身体の状態に合わせ、細かくアジャストするのは難しい作業です。
さまざまな障がいに合わせ、シミュレーターをアジャストしていくのは、かなり難しい領域です。スタッフに理学療法士の資格者がいて、一人ひとりの身体の状態を把握した上で、入力手段の調整、身体に合わせたフィッテングを行うようにしています。
昨年の実証実験では、1人30分程度という時間の制約があったので、なかなか苦労しました。だた次はこうやろうという課題が見えましたし、実証の場の大切さも痛感できました。
今回、開発でいちばん難しかったのは手動装置です。アクセルとブレーキのペダル操作を手で行うための装置の構造を、前回とはまったく違うものにつくり変えています。
前回はゲームのジョイスティックの延長で手動装置を設計していましたが、こうした装置を使えるくらいの身体機能がある方の場合、もう少し自分でクルマを操作している感覚がほしい、という声を多くいただいています。最終的に協力していただけるメーカーも見つかったため、どうにか完成にこぎつけました。
本コンテストに参加した理由を教えてください!
多くの人に楽しんでもらえるデバイス開発に、現場での検証が必要でした。
前述した通り、長屋さんとの出会いからシミュレーターの開発が始まり、トヨタ・モビリティ基金の活動を知りました。参加を決めたのは、もっと多くの人に楽しんでもらえるデバイスの開発、環境づくりを行うため、このコンテストに大きな意義を感じたためです。
前回はサーキットとは別の会場で、その場で初めてお会いした障がいのある方に合わせて調整し、シミュレーターでのレースを楽しんでもらいました。たとえ障がいがあったとしても、レースを楽しむ方法があることを体験してもらうことができました。
本コンテストでの挑戦、実証内容はどういったものになりますか?
オンラインレースに参加し、クルマを操る感覚をみんなで楽しんでいただきます。
前回の経験から、現場では大きく3つの操作パターンに集約されるのがわかっていたので、今回は各パターンに対しての技術開発、提案力の強化を図っています。
1つ目は、肩肘はある程度動かせるものの、下半身と手先を動かすのは難しいケースで、アクセルとブレーキの操作は大きなレバーを使い、ハンドルを握れる人は握って操作します。2つ目は、同じように下半身に麻痺があり、上肢の障がいもシビアなケース。アクセルとブレーキをレバーで操作するのは一緒ですが、ハンドルはジョイスティック型のデバイスになります。3つ目は、2つ目からより身体的にはシビアな状態を想定して、アクセルとブレーキ、ハンドル操作もジョイスティックで行うようになります。
今回の実証実験は、ePARAの実証で行うオンラインレースに「テクノツール・チーム」という枠をいただき、実際に参加し、長屋さんを含めた3人のチームで、弊社の開発したデバイスを使ってレースを戦う予定です。参加するチームのレベルはさまざまですが、長屋さんという元レーサーが率いる私たちのチームも、レベルはかなり高いはずです。デバイスを工夫することで、いろんなレースの楽しみ方ができる姿をお見せしたいと思います。
最後に本コンテストにかける想いをお願いします!
時速300キロを体感する機会は、誰にでも平等にあることを伝えたいと思います。
テクノツールという会社は、創業から約30年、デジタルデバイスのインターフェイスの部分を多様化することで、それぞれの人の個性や可能性を最大限発揮できるようなサポートを行なってきました。今回の取り組みも、創業時からの理念の延長線上にあるものです。
身体に障がいのある方とモータースポーツは、多くの場合、イメージが重ならないでしょう。障がいがあれば運転は難しいし、レースはさらに難しくなります。それが当然の見方かもしれませんが、シミュレーターがあれば常識を超えることも可能になります。たとえ障がいがあっても、工夫と準備をしっかりすれば、時速300キロで走れる世界があることを、今回の実証実験を通じて見せていきたいと思います。
私たちがつくりたいのは、身体の状態に関わらず、あらゆるチャンスが平等に用意されている社会です。その実現に少しでも貢献していきたいです。やりたいことを諦めずに済む社会の実現を目指して、取り組みを続けていきます。