移動式センサリールーム開発者の泉さん、阿部さん、相田さん、新井さんにインタビューしました!
今回考案したアイデアの紹介をお願いします!
誰でも安心してイベントを楽しめる、移動式センサリールームを提案しています。
泉さん 発達障害や感覚過敏の方たちが、安心してイベント参加を楽しめるよう、移動式センサリールームの実証をさせていただく予定です。
阿部さん センサリールームは「スヌーズレンルーム」や「カームダウンルーム」などの呼び方もありますが、スポーツのような大きな音が発生するスタジアム、または屋外でも、音や光などの刺激を遮ることができる独立した空間を指します。完全にシャットダウンはできせませんが、部屋の中で出来るだけ落ち着いて観戦、観賞できる環境づくりを目指しています。日本ではなじみがないかもしれませんが、欧米のサッカースタジアムなどでは、障害のあるファンのためにホームチームが用意しているケースも珍しくありません。
私もサーキットでカーレースを観戦させていただき、マシンが目の前を走り抜けるときの音には驚きました。あの迫力がモータースポーツの魅力なのだとしても、感覚が敏感な方にとっては刺激が強すぎて、パニックを引き起こす可能性もあるでしょう。
そんなとき、一時避難的に利用しながら落ち着いて過ごせる空間を、センサリールームで提案したいと考えています。音だけでなく皮膚感覚が過敏な方もいらっしゃるので、クッションのさわり心地、フロアの座り心地などにも配慮することで、いろんな方にとって居心地のいい空間づくりを目指します。
発案のきっかけは何ですか?
誰でも、行きたい場所に、不安なく出かけられる環境をつくりたいと思ったためです。
泉さん 私たちは、障害のある方の「選択肢を増やす」という視点をとても大切にしています。百貨店に自社ブランドでポップアップストアを出店したとき、家族と一緒に来ていた障害のある方とお話する機会がありました。音や光、人混みの刺激が強く、パニックを起こすと迷惑をかけてしまうと考え、百貨店は行きにくい場所だったそうです。センサリールームがあれば出かけやすいと聞き、それなら他の場所にも用意すれば、それがサーキットでも、キャンプ場でも、行きたい場所に行けるようになるかもしれません。そこにプロデュースの可能性があると考えたのがきっかけです。
弊社は、アートをモチーフにした取り組みを自社ブランドで展開してきた経緯があり、障害のある方、その家族、または団体の方々からも応援していただいたいます。そういう方々と連携することで、さまざまな意見をうかがい、それを開発にフィードバックできるところが強みだと思います。
センサリールームを手がけるところは他にもありますが、センサリールーム自体、あまり世間的には広く知られていないのが現実です。前述したように、アート領域での実績が私たちの特長でもあります。障害のある、全国の作家さんたちとも協力することで、ビジュアル的に美しいものをつくる。そして、当事者ではない人たちの目に留まるようなものにすることで、センサリールームの存在や、当事者の方を取り巻く外出の現状を知るきっかけをつくれるのではないかと思います。
実証に向けて苦労していることは何ですか?
人によって感じるものは異なり、多様性に対応する難しさがあると痛感しました。
阿部さん 開発に反映させるため、いろんな方の話を聞くようにしてきました。最初の頃、いろんな要素を付け加えていけば誰でも使えるセンサリールームになると思っていたのですが、好きと感じるもの、苦手と感じるものはかなり違うことに気づかされました。多様性を受け入れながら、利用する方が誰でも快適に過ごせる空間にするにはどうすればいいのかを、いろんな方々と相談しながら進めています。
相田さん 確かに落ち着けるポイントは人それぞれ違うため、対応としてはwi-fi環境を整えて、タブレットでゲームをしたり、スマホでYouTubeの動画を見たり、自分の家にいるような感覚で寛げるような配慮も必要になります。
泉さん アンケートを実施したこともありますが、回答はしてくれても、実証に来てくださる方がなかなかいないこともあります。アンケートは答えやすいけど、実証となるとハードルを高く感じられるようで、それも苦労しているところです。
相田さん 障害のある方本人ではなく、親がまわりの視線を気にして、なかなか外出できないというケースもあるようです。これは簡単には解決できない問題ですが、センサリールームが、困ったことがあったら駆け込める場所、ある種のシェルターのような立ち位置で認知されれば、ハードルのいくつかは解消されるのではないでしょうか。今回はサーキットですが、商業施設や駅、空港など人混みが激しいところにも、障害のある方が安心して出かけられるように、センサリールームが普及してほしいと思います。
本コンテストでの挑戦、実証内容はどういったものになりますか?
居心地の良さや安心感を、障害のある方に寄り添ってつくり、方法を検証していきます。
泉さん 話を聞いたり、アンケートを取ったりするなかで、障害のある方がセンサリールームについて、またはその前段階になる外出のハードルについてどう思っているのか、集めるところから始めました。心理的なハードルがあるという仮説をもとに、次のステップとして、センサリールームで過ごす際の居心地の良さや安心感を、障害のある方に寄り添いながらつくりあげていく必要があります。
今回の実証では、センサリールームの外装に作家2名、内装に作家3名のアート計6作品を起用して彩る予定です。その中の一つは笠原鉄平さん(在籍:PICFA|佐賀県)の「集いの習慣」という作品で、耐久レースの舞台になるサーキットを、障害の有無に関わらず皆が集える場にしていきたいという思いを込めて選びました。クライアントのビジョン、イベントのコンセプトに沿った作品を選び、キュレーションしていくのも、今後を考えた場合は重要な視点になると思います。
今回のサーキットという舞台は、音やスピード、迫力を含めて、とても刺激的な環境でのイベントです。そういう場所で私たちの取り組みが実証できるのは、とても貴重な経験になるはずです。
最後に本コンテストにかける想いをお願いします!
センサリールームの設置を、社会が変わるきっかけにしたいと思います。
相田さん 壮大すぎるかもしれませんが、すべての障害がある方と家族が外出する楽しさを感じ、アクティブに生きるきっかけにしたい、というのが最も叶えたい目標になります。また、センサリールームが設置されることで社会自体も変わり、障害のある方にどう向き合っていけばいいかを、考えるきっかけになってほしいと思います。
泉さん こうした取り組みをマネタイズできるモデルが、今の日本にはありません。例えば、センサリールームを広告媒体として活用し障害のある方に快適に過ごしてもらいながら、中長期の視点ではマネタイズできる仕組みをつくることで、持続可能な事業にする方法も探っていきたいと思っています。
商業施設にヘラルボニーのセンサリールームを置く際、アートによる表現もそこに加えれば、障害のある方の外出ハードルを下げながら、施設は集客の効果を得られるかもしれません。継続できる仕組みをつくり、収益を上げ、新しいチャレンジができるような流れができればいいと考えています。
新井さん 事例として、弊社の本社がある盛岡では岩手ビッグブルズというバスケットボールチームと協力して、ヘラルボニーデイを開催しています。その日はヘラルボニーが契約する異彩作家のアート作品や、アートを起用したグッズなどで彩るのですが、多くのスポンサー企業も参加いただいています。また、センサリールームで使うスリッパ、ノベルティにスポンサー名を入れる、という展開も考えられるかもしれません。ヘラルボニーの異彩作家とセンサリールームにふれてもらう機会を増やしながら、いろんなコラボレーションの可能性を探っていきたいと思います。