遠隔操作技術を開発する緒方さんにお話をうかがいました。
今回考案したアイデアの紹介をお願いします!
離れた場所にいても、握手や花束贈呈できるソリューションを開発中です。
緒方さん 視覚障がいのある方が、遠隔でレーサーと握手したり、花束を贈呈したりといった体験を可能にするソリューションを開発しています。ベースになるのは「リアルハプティクス」と呼ばれる、遠隔手術のための技術です。患者さんと医師の間で双方向に感触を伝える仕組みで、微妙な力加減の伝達も可能になっています。世界的には1940年代から研究が行われていましたが、2000年代に入って慶応義塾大学が初めて成功させた技術です。
リアルに対面する人と握手したり、ものを渡したりする場合、人間は無意識のうちに角度や力加減を調整しています。それを遠隔操作で再現することで、離れた場所にいても、お互い直に触れあうような感触で握手することも可能になります。
コロナ禍では非接触がキーワードになりましたが、アイドルの握手会、プロ球団の選手とファンの交流などで、こうしたシステムが既に利用された事例もあります。
発案のきっかけは何ですか?
産業分野で培ってきた経験、知見が、障がいのある方の支援へ応用できると思いました。
緒方さん リアルハプティクスは遠隔手術の技術として生まれましたが、双方向に、リアルに力加減を伝える技術を、産業分野に応用する取り組みも行っています。熟練技術者に属人化していた作業を、遠隔操作でロボットが行ったり、感触をデータ化したりということもできます。そうした技術を積み重ねた延長として、障がいのある方を支援するような方向への展開を考えました。
利用された方からはどのような声が寄せられていますか?
リアルの対面とは違う、新しく未体験の存在感が高く評価されています。
緒方さん 実際に遠隔で握手を体験された方の反応を見ると、リアルに対面するのとは別の意味で「存在感を感じられます」と好評をいただいています。
実証に向けて苦労していることは何ですか?
リアルタイムの双方向通信が必須のため、通信環境を整えなければいけません。
緒方さん 実証の場がサーキットということで通信環境には苦労しています。離れた場所とつなぎ、感触のデータをリアルタイムにやりとりする必要があるため、安定して通信可能な環境が必要であり、その方法を模索しているところです。
モータースポーツは、同じサーキットにいても、レーサーと観客の接点は少ないのではないかと思います。遠隔技術でコミュニケーションを取れるようになれば、レーサーとの距離も縮まるでしょうし、すべての人に新鮮な体験をしていただけるよう努力しているところです。
本コンテストに参加した理由を教えてください!
力加減を変え、双方向でやりとりする感覚を多くの人に感じてほしいと思ったためです。
緒方さん 遠隔操作をするなかでの力加減の増幅、双方向で行う感覚などは、障がいのある方も健常者も、同じように体験していただけるはずです。そうした機会を提供できると考えたのが1つと、認知度を広げながら、障がいのある方に実際に使っていただき、新しい体験を感じてほしいと思って応募しました。
本コンテストでの挑戦、実証内容はどういったものになりますか?
VRゴーグルとグローブを使い、実際に触れているような感覚のある遠隔握手を体験してもらいます。
緒方さん 今回は、遠隔操作の技術を使い、レーサーと握手する、花束を渡すなどの行為を遠隔で体験していただく予定です。体験者の方はVRゴーグルとグローブを装着します。VRゴーグルでは、目の前にレーサーが映し出され、差し出された手の模型に体験者が手を合わせ、握手するイメージです。花束の贈呈も同じで、VRゴーグルまたはディスプレイを使いながら遠隔でロボットを扱い、花束を渡していただくようになります。
どちらも同じリアルハプティクスの技術を使っていますが、動きが異なります。握手の場合はグローブをした手のひらだけをリアルに動かし、花束贈呈の場合は腕全体を使う必要があります。手のひらだけより、大きく体を動かす方が難易度は高いのですが、安全性に配慮しながら、どちらも体験していただこうと思います。
最後に本コンテストにかける想いをお願いします!
検証の先にある、ロボットと共存する社会の実現も見据えて開発を続けます。
緒方さん リアルハプティクスを使うと、人の力加減や感触がすべてデータ化され、コンテンツ化することもできます。リアルハプティクスで動くロボットが世界中に普及すると、人の動きや感触を伝えることで、例えばロボットが有名シェフの腕前で料理をしてくれる、ということも可能です。介護の領域でも、ちょっと手を貸してほしいとき福祉ロボットが助けてくれる、という未来も想像できるでしょう。
今回のプロジェクトは、モータースポーツを身近に感じていただくと同時に、デバイスの感触越しではあっても、レーサーとの触れ合いから、新しいよろこび、楽しさを感じてほしいと思います。そうした体験をいろんな場所で、多くの人に体験していただくことで、前述したロボットと共存する未来の実現につなげていきたいと思います。